Tuesday 28 July 2009

COLUMN-〔インサイト〕フランス・タイ・韓国も、グローバル化進むイスラム金融=国際協力銀 吉田氏

http://jp.reuters.com/article/domesticEquities4/idJPnTK030003820090612

前回の本コラムでは、イスラム金融が現下の金融危機から受けている影響の一端を紹介した。今回は、そうした逆風下にありながらイスラム金融が成長を続けている一側面として、イスラム金融に取り組む非イスラム国が増え、市場の裾野を広げつつある様子を概観する。

 現代におけるイスラム金融の特徴の1つは、非イスラム諸国の国際金融センターが積極的に取り組んでいることである。英国では既に5つのイスラム専 業銀行が営業しており、HSBCやバークレイズなど英国系金融機関の国際イスラム金融市場におけるプレゼンスも高い。シンガポールについても、イスラム専 業銀行が1つあるほか最近、政府機関のMAS(金融管理局)がスクーク(イスラム債)を発行したことが話題になった。

 香港も、行政長官による振興方針の表明、イスラム銀行(マレーシア系)や投資ファンド(中国系)の認可、政府機関(航空当局)のスクーク発行検討 などがよく知られている。米国でも、政府の政策などでは目立っていないが、株価指数提供やファンドビジネスなどでは世界レベルにあるほか、地域コミュニ ティ向けのイスラム銀行などもある。

 <国際的機関の案件で目立つフランス>

 こうした金融大国に限らず、最近は様々な非イスラム諸国においてイスラム金融への傾倒が目立っている。

 例えばフランス。BNPパリバやカリヨン、ソシエテ・ジェネラルなどの主要国際的金融機関は、海外市場においてイスラム金融の分野でも知られた存 在である。とりわけ、マレーシアの格安航空会社エア・アジアの航空機調達においてBNPパリバとNatixisという2つの仏系金融機関がイスラム金融を 提供した取引は、在仏企業エアバスが輸出者だったという要因はあるにせよ、仏系機関の実力を世に知らしめた。

 また、人材育成面でも、ストラスブルク大学がイスラム金融コースを提供しているほか、そうした動きがHECなど他の主要大学にも波及している。最近では、ソブリン・スクーク(イスラム国債)の発行検討という点でも注目を集めている。

 仏教国タイでイスラム金融が注目されていることも興味深い。そもそも、イスラム国マレーシアに近いタイ南部にイスラム教徒が多かったことから、同地域向けにタイ・イスラム銀行が2003年に営業開始となったのが、同国イスラム金融の嚆矢(こうし)である。

 最近では、同行によるスクーク(イスラム債)発行計画が報じられ、タイにもイスラム金融があるという印象を強く与えている。また、本年5月、タイ 証券取引所はイスラム株価指数(イスラムの教えに反しない銘柄で構成された株価指数)を英国指数企業FTSEと共同で開発した(FTSE SETシャリア指数)。実は、各国のイスラム株価指数については、FTSEに加え、ダウジョーンズやスタンダード&プアーズといった世界的指数提供企業が 非イスラム諸国のものも含めて多く作成しているが、タイ証券取引所が独自の指数を開発したことは、取引所レベルによるイスラム金融への積極性がうかがわ れ、特筆に値する。

 <積極性発揮する韓国>

 日本のおとなり韓国も、意外感が強いかもしれないがイスラム金融への関与を強めている。人口の27%以上がクリスチャンでありムスリム人口は0.1%に過ぎない韓国でも、イスラム金融を通じた金融業界の活性化を企図して取り組みを前傾化させているのである。

 2009年1月には同国の金融当局(金融監督委員会と金融監督院)が国際機関IFSBとともに、ソウルで大規模なイスラム金融セミナーを開催し た。また、同年5月にシンガポールで開催されたIFSBサミットにおいては、カントリーショーケース(国別の発表セッション)にも参加していた。そこに参 加した国は、イスラム金融大国マレーシア以外には韓国のみであり、本セッションへ参加するには安からぬ参加費を主催者に支払わなければならないことからし ても、韓国の意気込みがうかがえる。

 なお、筆者が著した「イスラム金融入門」は韓国語に訳されており、同国においてもイスラム金融の定番書籍となっていることから、その筆者というこ とで韓国の金融当局より要請を受け、種々の情報提供や意見交換を以前、韓国で行なったことがある。金融監督院局長の質問ぶりからは、同国の金融業界振興に かける強い意気込みがみられ、今後、いろいろな取組実績が出てくることだろう。

 実際、現地金融業界との意見交換では、イスラム株価指数の開発とそれに基づく投資ファンドの組成に着手しているとの話も聞かれていた。また、現地 大手の大宇証券は、マレーシアのイスラム投資銀行大手CIMBと業務提携しており、同社より様々なノウハウを吸収している。いずれにせよ、日本にとって韓 国は意外な脅威とも言えるだろう。

 <日本は今後に期待>

 このように非イスラム諸国でもイスラム金融への取り組みが盛んになってきていることは、イスラム金融のグローバル化進展における1つの態様とみてよい。

 翻って、わが国はどうか。2008年12月に銀行法施行規則の改正があり、銀行の子会社にイスラム金融業務が認められた。これを受け、メガバンクの海外現地法人がイスラム金融の専門部署を設けて業務を開始するなど、一定の動きがみられている。

 証券分野でも、大和投資信託がイスラム金融方式の投資信託(ETF)をシンガポール取引所に上場したり、野村証券が東京での専門部署設置に加えマ レーシアにイスラム・アセット・マネジメントの専門子会社を設けたりと、前向きな取り組みがある。これらの証券会社では、海外でイスラム債(スクーク)の 引受実績もある。さらに保険(タカフル)分野では、東京海上グループが、サウジアラビアで早期に事業を開始した日系の先駆者である上、各国での事業展開の 様子などをみると世界のトップクラスのタカフル・プレーヤーと言えるほどのプレゼンスを誇っている。

 このように、日本のイスラム金融は海外市場を中心に前進しつつあると評価することができる。一方で、国内では今一つ盛り上がりに欠けるほか、主戦 場である海外でも実績はそれほど多くないという評価もある。2008年央以降の原油価格急落や世界的な信用収縮などの逆風が吹きすさんでいるが、環境条件 はどこの国においてもほぼ同様。世界各国の動きにキャッチアップできるか否かは、日本自体の意識と行動にある。こうした点については、別の機会に論じるこ ととしたい。

(文中、意見わたる部分は筆者の個人的見解であり、筆者が所属するいかなる組織のものではない)

 国際協力銀行・国際業務戦略部調査役、早稲田大学ファイナンス研究センター・客員准教授 吉田悦章

 

 (12日 東京)

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